XLVII
文明と戦争

アザー・ガット著, 歴史と戦争研究会訳


 大部の本である。しかも上と下があり、全部で1000頁近くある。読むにも力がいる。
 このところ、日中、日韓の間に領土問題が発生している(もちろん領土問題はないという見解もあるが、それぞれの国も主張が異なっているという意味で、問題があるとしておこう)。かつてはこうした問題はほとんど、戦争という手段で解決されてきた。しかし、いま、近代国家での間で、戦争という方法で領土問題を解決するのはお互いの損失が大きすぎる。それではその解決のための方法は何だろうか。そんなことを思っていたとき発行された本で、京都の本屋の本棚で見つけた本である。

 人間にとって、戦争、或いは紛争というのは、どういう意味があるのか、また、これは人間の本質的なものなのか、あるいは、一つの文化なのか。動物からの進化という視点でとらえたとき、個体として、また、ある種の血縁集団として、また文化集団として、戦いや戦争は、生物の進化の過程に共にあった話だというのが、著者の言っている基本である。さらに、その後、農業や牧畜の発達(文明化)の中で、こうした問題がどう発展してきたのかという立場で戦争という問題を、地域や時間を超えて広範に、また、生物学や人類学、さらには、歴史学、社会学、政治学の立場から捉え直した壮大な本である。こんな本を書ける人がいるとはすごいものである。江戸幕府の鎖国政策とその間戦争がなかった日本についてもふれられている。人間あるいは地球の将来を考えたとき、一度はこうしたことも考えてみる必要があるのだろう。特に、いまでも紛争や戦争の絶えない地域や関係をどう理解すればいいのか。私は、個人的には、「死んだ方が幸せな生活だと思う人達がいる間は、戦争やテロはなくならないのだろう」と思っている。その意味で、いろいろな地域が飢えることなく、豊になることが、戦争をなくす最低の必須要件であろう。
 科学は社会化し、文明の発展に大きく貢献してきた。しかし、同時に、それは戦争というものに関与してきたということでもある。本書は、社会科学に関わる本ではあるが、自然科学に関わる学生諸君にも、自分と社会とのかかわりを考える上で、また、戦争というものについて、自分で考える上で参考になるものであろう。こうした本を読んでみたいと思う学生が出てくることを期待したい。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。