IV
生命の研究はどこまで自由か : 科学者との対話から

橳島次郎著


 21世紀は「生命科学の世紀」といわれる。ヒトをもその研究対象として発展している生命科学研究はどこまで許されるのか。憲法が保障する学問の自由は、研究するもの誰にでも保障されているのだろうか。科学的にはやりたい研究を抑制する生命倫理という概念は、科学そのもの から出てくるのだろうか。著者は、こうした問題について討論するため、4名の著名な科学者を選んだ。そして、彼らとの対談を基礎に、科学研究というものの価値とその自由という根源的な問題について、自らの考えを基礎に、討論者の見解を示しつつ、本書をまとめた。
 そこでは、科学の目的また、そのあるべき形は何か、現在政策的にすすめられている、科学研究の有用性という視点をどう考えるか、科学研究の中心的な機関である大学とは何か、科学と社会の関係は、など、多くの重要な課題について、興味深い議論がなされている。主題は、生命科学であるが、内容としては、それにとどまることのないものである。
 その一つの結論として、科学の価値は、有用性とは関係のない、純粋に知るために知ることであること。そして、世の人の信頼と支援を得るためには、「大学の復権」が重要であること。また科学研究の自由は、研究者になろうとする人が、一定の修行をすることを基盤としていること、それが大学院の5年間であること等がまとめとして述べられている。私は、こうした彼らのいう修行が、科学者としての作法の習得であると考えている。
 科学が、科学技術として一体化された形で表現され、その有用性からの視点が重視されている今、あらためて、科学とは何か、また、科学するものの責任や科学の倫理とは何かを考えるためには、こうしたとことん突き詰めた思考の衝突が必要なのだろう。
 科学する科学者すべてが、これらの問題を曖昧にせず、自ら考えなければいけない課題であろう。科学者になろうとする、特に、生命科学者になろうとする学生諸君に勧める本である。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。