III
生物学者と仏教学者七つの対論 西洋の科学は、キリスト教の影響下に発展した。大地も人も神が作ったという概念の下では、自然現象自体も神の業である。科学はそれを人の言葉で理解するために発展してきたと言える。錬金術もそうであり、また、宇宙を理解する研究もその一つである。その結果として、いま、色々な自然現象を神の手を離れて説明できるようになってきた。典型的には、生物の進化についての科学は、人を神の創造物から、動物の進化のプロセスの結果と位置づけることになった。 それでは、キリスト教の影響下にない東洋では科学と宗教との関係はどうなっているのか。気鋭の自然科学者(生物学者)と宗教学者が、この問題について、それぞれの立場で対論し、その上で討論したものが、この本として成立した。 自然科学が物質を対象とするのに対し、仏教は物質と精神を対象としている。釈迦の時代の仏教は、何か超越的なものに頼ることなく、人の意識の中で、精神を制御しようとしている。自然科学も今、心(脳)を対象として、それを理解しようとしている。その意味では、原始仏教は、自然科学に概念を持っていたということもできる。 釈迦の時代の仏教と今の日本に広まっている大乗仏教とは、論理構成が相当違っていることも説明される。生物学というものも概念が、宗教とどう関わってくるのか、この本を読んで、考えることも出来る。 二人の著者は、高校時代の同級生であるという、うらやましい限りである。 学長 磯貝 彰 ※ 書評中の身分・表現は当時のものです。 |