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ネット・バカ:インターネットがわしたちの脳にしていること 書名だけ見ると、何か、センセーショナルな話題だけを載せたきわもの的な本をイメージさせるかもしれない。しかし、本書は、極めて学術的な、論理的な、硬い本である。 本書は、知的テクノロジーが脳のあり方を変える事になると言うことを、まず時計や地図の例を挙げて述べ、さらに、グーテンベルグの印刷機の発明により「本」というものが生まれた結果、脳のあり型がどう変わってきたかについて触れている。さらに、電子図書が増えつつあるとき、印刷された本はどうなるのか、また、インターネットの海で情報を読んでいるという作業が、脳に与えている影響について、詳細に論じている。当然のことながら、グーグルについても触れられている。 さらには、脳における記憶と、コンピュータに貯蔵される記憶(情報)との違いについて、著者の見解を展開している。こうした状況のなかで、ネット情報の拡大は、その利便性により、ヒトの脳のもつ本来的な機能を衰えさせていくことについての危惧が述べられている。その意味で、本書の原題にある、The Shallowsという言葉は重い。 本書は単に、インターネットという世界がどうなっていっており、それをどう使うかという情報科学的な観点からではなく、脳科学あるいは神経科学からの知見も含めた議論を展開している。こうした発想は、これからの情報科学のあり方を示唆するものかもしれない。これからの脳科学と情報科学の境界領域を考える上で、一度は読んでおくことを薦めたい本ではある。ただ、何かを教えられるというのではなく、著者と議論するつもりで読む必要があるかも知れない。その意味でも好著である。ただ、私なら、書名は「ネットと脳」とでもしたのではないかとも考えている。 学長 磯貝 彰 ※ 書評中の身分・表現は当時のものです。 |