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統計数字にだまされるな:いまを生き抜くための数学 東京への出張の折りに立ち寄った本屋で、また、面白い本を見つけた。 本書は、統計に表れる数字の裏にある諸々の問題を、具体的な例を示しながら教えてくれている。たとえば、集める統計数値の定義、統計上の揺れ(偶然)、平均というもの、抽出(サンプリング)という操作、リスクの大きさ(確率)などなど。一つだけ紹介しておこう。虹は7色に分割できるというが、それを集めて平均化すれば、白色になってしまう。白色を見ても、その中の色の成分は分からない。平均化の落とし穴である。 私たちが普段報道などで接している数値を、どういう視点で見ることが必要なのか、また、私たちがある情報を発信しようとする場合、より正確に伝えようとする場合、どのような表現や数値データが適切なのか。それ以前に、どのようなスタンスでどのようなデータを集めればいいのか。科学の成果は、統計的数字で表すことも多い、そうした場合、私たちが気をつけなければいけない問題も、この中で示唆されることが多い。また、著者は、政策立案者は、事実としての統計的数字をキチンと理解しておくことが重要であることも述べている。 内容として、医学の問題が多く取り上げられているが、特に読みにくいことはない。小型の本ではあるが、読みごたえのある本である。 本書は、イギリスの「More or Less」とういBBCのラジオ番組から生まれたものであるという。科学技術の時代に、科学リテラシーの必要性が求められている中、こうした番組が存在する国はうらやましい。翻って、日本のテレビ番組は、一体なんだろうかと思う。同時に買った本「テレビの大罪」(和田秀樹 新潮新書)を一緒に読んだだけに、その印象は強い。 なお、私は随分昔に、D.ハフ著、高木秀玄訳「統計でウソをつく法」(講談社ブルーバックス、1968年第1刷)を読んで、統計とか、数字の処理、あるいは、グラフによるごまかしなどの問題を意識した(それ以降、論文やプレゼンで、グラフでごまかしてはいけないと言い続けてきた)。紹介した本の巻末にも、関連の本が紹介されているが、このブルーバックスの本は紹介されていないので、追加しておく。極めて分かりやすい本である。この本の紹介文には、「私たちにとって、統計が読み書きの能力と同じくらいに必要になっている現在、「統計でだまされないためには、まず「統計でだます方法」を本書によって知ることが必要なのである」とある。 学長 磯貝 彰 ※ 書評中の身分・表現は当時のものです。 |