XXXII
あやしい統計フィールドガイド:ニュースのウソの見抜き方

ジョエル・ベスト著


 私は、基本的には本屋の棚をながめわたして面白そうな本を見つける。ただ、それだけではもちろん不十分なので、新聞などの書評欄も参考にする(自分で見つけた本が,その後書評欄で取り上げられているのを見るのは楽しいものである)。大きな本屋に行けば、そうした本を並べてあるコーナーもある。この本は後者の方法で見つけたものである。 
 かつて、ブルーバックスで「統計でウソをつく法」(ダレル・ハフ著、高木秀玄訳)というのを読んだことがある。統計というものは、本人にその気がなくとも、間違った結論や見方を示してしまうことがある。また、統計データのグラフも、使い方に気をつけないと、誤った印象を与えることになる。逆にそうした方法を使えば、自分のデータを印象的(誤解に近いほど)に見せることが可能である、というようなものであった。それを読んでから、私は、学生達に、統計データの扱い方に気をつけるよう、また、グラフを書くときは縦軸目盛りに0が無いものを書いてはいけない(対数では0はないが)といってきた。
 本書は、そんな経験の延長として私自身は読んだ(著者はすでにこうした本を2冊だしているが、それについては私は読んではいない)。いま、科学リテラシーということがいわれているが、メディアなどに現れるいろいろな統計データを正確に理解すること、そのデータの問題点を理解することは、大変重要な能力である。 
 この本は、まず、統計データを見るためのベンチマークの知識の必要性を示している。異常に大きい数字はそれで分かるものであるという。また、統計とは、誰が(どういう目的で集めるか)、何を(どういう定義で集めるか)、どうやって集め、どう解析するかということであるという。その何処かの段階に明確でないものがあれば、最終的なデータは怪しいものであると、それぞれについての例を示しつつ教えてくれる。 
 私たちは科学者として、統計データをとり、それを表現するときは、この本に書かれたような問題が生じないような作業と処理をし、自分たちの成果を世に問う必要があると、この本は教えてくれる。また、こうしたことを理解しうるような社会の科学リテラシーを高めていくことも、私たちの任務なのであろうと思う。学生諸君にも、自分の回りでこんなことがないのかどうか、一度点検してみることをお勧めする。そのための考え方も本書では整理して示してある。そのためにも読んでおいていい本である。 
   

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。