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科学嫌いが日本を滅ぼす :
  「ネイチャー」「サイエンス」に何を学ぶか

竹内 薫著


 サイエンスライター歴20年の著者が、日本の科学の現状を憂い、その問題点などを、「ネイチャー」と「サイエンス」という2大雑誌を題材として、科学者向けだけにというのではなく、一般の人にも分かるように書いた本である。  あとがきの「おわりに」に著者はいう。
  "一般の人々は、科学に(あまり)興味を示さず、また、科学者の多くも啓蒙活動を小馬鹿にしていて、健全なコミュニケーションが失われている。科学関係の予算は減り続け、モノ作りの力は弱まっている。社会全体として、いざという時にも,科学的かつ合理的な判断よりも扇情的な発言ばかりがもてはやされる。
  科学を愛し、20年間、「科学応援団」として生きてきた私は、そんなゆがんだ日本の科学に対して忸怩たる思いを抱き続けてきた。正直、「バカヤロー!」と叫びたい気持ちだったのである。"

 内容は、二つの雑誌の違いや科学におけるアメリカの覇権に始まり、科学誌におけるいくつかの事件簿、さらには、日本の科学の問題など、幅広い。特に、日本の科学の現状については、応援団として書くべきことを書いてきている。その中で、今の時期に発行される科学関係の図書であれば当然ふれられるべき原発問題についても、原発事故と科学誌という1章が割かれ、海外のメディアと日本のメディアの違いや、著者の考え方が述べられている。 
 原発事故は大きな問題であり、今後の原子力発電をどうしていくかは、日本の国としてまた、地球規模でも大きな問題である。しかし、それを、感覚的にあるいは感情的に捉えるのではなく、科学的に捉えた議論が必要であると、著者はいう。いま、特に日本の科学者は、自らがそれぞれ、この問題を考えなければいけないときであり、科学者に向けた発言として意義がある。こうした問題も含め、私たち科学者は、どう考え、社会にどう発信していくべきかについて、適切な示唆を与えてくれる本である。本学の学生諸君には是非一度読んで欲しい本であると思っている。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。