IX
沈黙のジャーナリズムに告ぐ : 新・仮説の検証 小出五郎氏は、本学経営協議会委員で、博士前期課程の入門講義の講義にも来ていただいている。NHK ディレクター・解説委員などを務め、科学ジャーナリストとして、今この分野の重鎮でもある。 小出氏はいう、「ジャーナリストは志をもって、仮説を自らの足で検証していくことが重要である」また、「これを主観的報道主義と呼ぶ」と。その見本として、鉱毒事件で有名は足尾銅山を対象に、その問題にジャーナリストとして取り組んだ荒畑寒村、政治家という立場で行動した田中正造、また、記録写真を撮り続けた小野寺一徳の3名を取り上げ、ジャーナリストの「志」とは、何かについて訴えている。 最後に、小出氏は、NHK時代の自らの体験をベースに、今のジャーナリズムの問題を厳しく追及している。その上で、今後、市民が関わったジャーナリズムのあり方を提言している。 私は入学式などで、「自ら考えて得たものが真の知識で、外から与えられたものは単なる情報である」という言葉を紹介してきた。ジャーナリズムの世界でも、自ら調べる(考える)ことは専門家としての基盤で、その重要性は、学問の世界と同じことであることが、この本から理解された。 本学の修了生からも、科学コミュニケーターとして活躍する人、あるいはジャーナリズムの世界に身を投じる人たちがいずれ出てくることを期待しているが、少しでもそうした分野に興味がある学生諸君には、是非読んでもらいたい本である。 本書は、小出五郎氏から寄贈されたものである。実は、私は、小出氏の大学教養学部時代の同級生で、彼の大学卒業以来の活躍を思い出しながら、最後の章の彼の思いを受け止めた。 学長 磯貝 彰 ※ 書評中の身分・表現は当時のものです。 |