XXXVII
水危機ほんとうの話

沖 大幹著


 著者は日本学術振興会学術奨励賞などを受賞している、水文学の専門家。 その立場から、日本の、また、世界の水問題に、細かい資料を使いながら、問題点を説明していく。その中で、一般的にいわれている「危機問題」の誤解についても、実態を解説している。

 水問題については、推薦図書として、「水が世界を支配する」をあげてあるが、今回の書は、「歴史的発展と水」と言うより、現代の環境問題としての水問題という視点が強い。それを示すものが、水とエネルギーと食糧とは相互に関連づけて考えなければいけないという著者の基本的な考え方である。また、水問題が世界的な問題ではあるが、その使用の問題は極めてローカルな問題であって、何処かで節約すると、地球の違う場所の何処かで助かるというような問題ではないことが、地球温暖化などの環境問題とは異なることであると、指摘している。
 
また、著者は意識して、研究者を紹介しながらその業績を記載している。それは研究を物語として語るためでもある。中には、卒業論文での業績などもあり、教育としても優れた教育をしているのだという印象を持った。
 
岩波新書に最近出版された「地下水は語るー見えない資源の危機」(守田優著)があるが、それと一緒に読むと、近くの水、世界の水と両方を理解できるだろう。

新潮選書としてはかなり厚い本であり、著者の言いたかったことがこの本にまとめられている。読み応えのある本である。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。