XXXIV
バイオ化する社会 : 「核時代」の生命と身体

粥川準二著


 著者は本書の構想の過程で、3.11に出会い、それを大幅に変えざると得なかったと最初に述べている。最近のこうした書物はその意味ではほとんど全てが3.11の影響を受けている。本の帯には、「ゲノム科学と原発事故をつなぐもの」とある。
 
 著者はいう、
 「広島と長崎に原子爆弾が落とされた1945年以降の時代、そして原子爆弾と「原子力」をエネルギー生産に使い現代社会のことを、「核時代」と呼ぶことがある。こうした科学技術は「核技術」と呼ぶことも可能であろう。その後人類は、もうひとつの「核」に介入する技術を手に入れた。それは「細胞核」である。核のDNAに介入する技術を遺伝子工学というが、それを含め広く生命に介入する工学技術のことを「バイオテクノロジー(生命工学)」という。
 すなわち、20世紀後半からの時代は、原子力とバイオテクノロジーという2つの核技術が全面的に発展してきた時代であるといえる。本書の目的は主に後者の核技術、すなわちバイオテクノロジーの人間への応用とそれを受容し始めている社会を考察し、その輪郭を描くことである。」
 かつての生物学では、人間(ヒト)は観察する主体であって、加工すべき客体ではなかった。それがヒトも技術の対象となってきているのが現代である。さらにはものとしてのヒトの身体の部分や総体ばかりではなく、ヒトの心や意識までもが対象となってきている。こうした状況を著者は広い意味で、「バイオ化」と総称している。それらのヒトやヒトの社会への影響を見ている。
 本書は、バイオ化と社会現象とのかかわり、すなわち、バイオテクノロジーとヒトとの関係を幅広く検証し、その現象を報告している。バイオテクノロジーのいろいろな側面についての多面的な視点を提供してくれる良書である。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。