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創造 : 生物多様性を守るためのアピール

E.O.ウィルソン著


今年は、10月に名古屋で、通称COP10(第10回生物多様性条約締結国会議)が開催される。そのこともあって、この所、生物多様性に関する本をいくつか読んでいる。先にも「生命(いのち)にぎわう青い星」(樋口広芳著)を紹介した。今回は、もう少し根源的な観点から、生物多様性について、その重要性や、保全、生物教育の問題についてふれてある本を紹介する。
 本書の題名は「創造」(the Creation)。これは、キリスト教の「天地創造説」の用語である。著者はもちろん進化論の立場に立つ科学者であるが、現在の地球の生物多様性の由来の理解の違いを超えて、今の地球の生物多様性を保全するための立場から、その重要性への理解を深め、そのための活動を、天地創造説を信ずるものと進化論を信ずるものとが、協働しようと呼びかけている。その意味では、元々は、アメリカの一般国民に向けて書いた本であるということができる。  訳者は、このあたりの事情を日本の読者に予め理解させるため、訳者からの説明を本書の最初に置いている。書店で本書を手にした人が、「創造」というタイトルで、宗教的な本であるような誤解をしないための配慮である。こうした配慮もあって、私達は、宗教的な立場の問題をあまり気にすることなく読み続けることが出来る。本書には、随所に興味深い自然が紹介されており、専門家の立場からの、生物多様性保全への提言として読み応えのある本である。  なお、著者は、蟻を専門とする昆虫学、及び生態学の大家で、数多くの賞を受賞しているが、そのなかで、1993年に日本国際生物学賞も受賞している。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。