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Asian Breeze

『Asian Breeze』は、(公財)アジア女性交流・研究フォ-ラム(KFAW)がアジアの女性関連情報を日本語と英語で発信しているニュ-ズレタ-です。
ジェンダ-平等、女性・少女のエンパワ-メント、SDGs、環境問題など、最新のトピックスを幅広く取り上げており、「アジアの女性の今」を見ることが出来ます。是非ご覧下さい。



Asian Breeze 101号(ウェブニュ-スレタ-)

「世界をつなげるフィリピンの女性たち」

 

ー小ケ谷 千穂

 

 フエリス女学院大学教授 

 

 

 


Asian Breeze 100号(ウェブニュ-スレタ-)

フィリピンにおけるライスケ-キと女性の地位

-バトリシア・B・リクアナン(元フィリピン高等教育大臣)

 

ジェンダ-平等はSDGs達成の鍵

-織田 由紀子 (JAWW(日本女性監視機構)役員)

 

今回、節目となる100号は、国連第4回女性会議で「北京宣言と行動綱領」の交渉を主導して国連でも活躍され、フィリピンで長い期間に渡り、女性の高等教育に携われた、バトリシア・B・リクアナン元フィリピン高等教育大臣にフィリピンのジェンダ-問題を語っていただきました。またアジア女性交流・研究フォ-ラムで研究員を務められ、大学、NGOなどで、長年ジェンダ-問題に関わってこられた、織田由紀子さんに、SDGsの達成の鍵について解説いただいています。

 


Asian Breeze 100号




目次

  1. フィリピンにおけるライスケ-キと女性の地位
    -バトリシア・B・リクアナン(元フィリピン高等教育大臣)
  2. ジェンダ-平等はSDGs達成の鍵
    -織田 由紀子(JAWW(日本女性監視機構)役員)

-織田 由紀子 (JAWW(日本女性監視機構)役員)

今回、節目となる100号は、国連第4回女性会議で「北京宣言と行動綱領」の交渉を主導して国連でも活躍され、フィリピンで長い期間に渡り、女性の高等教育に携われた、バトリシア・B・リクアナン元フィリピン高等教育大臣にフィリピンのジェンダ-問題を語っていただきました。またアジア女性交流・研究フォ-ラムで研究員を務められ、大学、NGOなどで、長年ジェンダ-問題に関わってこられた、織田由紀子さんに、SDGsの達成の鍵について解説いただいています。

フィリピンにおけるライスケーキと女性の地位

バトリシア・B・リクアナン

社会心理学者、教育者、女性の権利とエンパワーメントの活動家。アテネオ・デ・マニラ大学心理学科教授・学科長、同大学学務副学長、ミリアム大学学長を歴任。フィリピン女性の役割に関する国家委員会(現フィリピン女性委員会)、国連女性の地位委員会、アジア・太平洋地域のNGOネットワークで委員長を務め、国内外の女性運動で指導的役割を果たしてきた。1995年に中国の北京で開催された国連第4回世界女性会議では、「北京宣言と行動綱領」の交渉を主導した。2010年から2018年までフィリピン高等教育大臣。

フィリピンのジェンダー平等と女性のエンパワーメントには多くの要因があります。公式の政策は、女性と男性の平等を確認し、女性が国民生活において果たす重要な役割を認識しています。フィリピン憲法には明確なジェンダー平等規定があります。包括的な「女性と開発及び国家建設法」や、より最近の「女性のマグナカルタ」など、多くの重要かつ進歩的な法律があります。フィリピンは、アジアで初めて反セクシュアルハラスメント法を制定した国で、最近では「安全な空間法」に拡充されました。

コラソン・アキノ大統領の任期中に、初めてのフィリピン女性開発計画が立ち上げられ、その後もいくつかの後続計画が続きました。これらの国家計画の重要性は、フィリピン開発計画の一環として、女性、女性のイシュー(問題)、および女性の貢献を国家計画とプログラムすべての政府機関の業務の一部としていることです。女性のための政府の活動も、予算の5%をジェンダー平等と女性のエンパワーメントのプログラムに充てる「ジェンダー予算」(国立大学を含む、すべての政府機関の予算が対象)の創設により改善・向上しました。

国内政策に加えて、女性の権利に関する国際協定、例えば「女子差別撤廃条約」や「北京宣言及び北京行動綱領」なども重要な役割を果たしています。これらに署名したフィリピン政府だけでなく、4人のフィリピン女性が国連女性の地位委員会(UNCSW)の議長を務め、これらの画期的な文書の策定に大きく関与していたことに注目すべきです。

世界経済フォーラム「グローバルジェンダーギャップ指数」が2006年に発表されて以来、フィリピンは10年以上にわたり常にトップ10に入っていました。現在のフィリピンの順位は低くなりましたが、それでもトップ20に入っており、ここに入っている唯一のアジアの国です。そして、アメリカが初の女性副大統領を祝っている一方で、フィリピンは2人の女性副大統領と2人の女性大統領、さらに何人かの高い地位に就いている女性がいます。

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは、立法、政策及び指導力に加えて、草の根レベルで強力で活気に満ちた女性の運動、進歩的な法律と政策を推進し、サポートする女性NGO、そして重要な問題で自分たちの声を聞かせようとする女性NGOによって推進されています。

フィリピンにおける女性の地位は、女性運動が「ビビンカの原則」と呼ぶもので推進され、向上しています。ビビンカは国民的な美味であり、もち米の粉、卵、少しの砂糖から作られ、地元の白いチーズ、塩漬けのアヒルの卵、すりおろしたココナッツがトッピングされています。これを作るのは時間がかかるプロセスで、生地を丸い鍋に流し込み、その下に熱い炭を置き、さらに上にも熱い炭を置くというものです。実際、ビビンカは下からも上からも燃える炭で調理されています。そのため、女性の地位は上からの進歩的で啓蒙的な立法、政策、指導力による火と、下からの組織された、ダイナミックで勇敢なNGOによる火によって推進されています。

ですから、フィリピンの女性の地位には多くの事柄が働いています。しかし、問題もあります。女性は学校の入学、卒業の数で男性を上回っていますが、これらの成果が必ずしも良い仕事へのアクセスや仕事や昇進の機会での平等につながっているわけではありません。男性の平均賃金は都市部、農山漁村部ともに女性より高く、行政等の管理職、政治家としての地位に占める女性の割合は低いです。

否定的な態度やステレオタイプが社会に存在し、作用しています。これは、特に政治で顕著であり、根強い差別が作用しています。多くの人々が男性の方が優れた政治的リーダーであると信じています。そのため、女性は、選挙人の少なくとも半分を占めているにもかかわらず、候補者は少なく、深刻な状況が続いています。女性に対する暴力は様々な形で存在しており、これには、家庭内暴力、レイプ、セクシュアルハラスメント、トップの男性リーダーからの女性差別的な発言などが含まれます。

したがって、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための提唱と行動は続けられなければなりません。フィリピンの「グローバルジェンダーギャップ指数」の順位が低下した評価を分析し、是正する必要があります。「ビビンカの原則」は、より熱意と決意をもって適用されるべきです。

ジェンダー平等はSDGs達成の鍵

織田 由紀子

JAWW(日本女性監視機構)役員

これまで、(公財)アジア女性交流・研究フォーラム研究員のほか、大学教員、JICAプロジェクト専門家、委員会委員、NGO役員など、広く、研究、教育、開発実務、市民社会分野の活動に関わってきた。専門分野はジェンダーと持続可能な開発。SDGsに関しては、2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)の誕生以降、2015年の「アジェンダ2030」の採択、その後日本での実施過程を、ジェンダーと市民社会の立場から関与してきた。近著は「環境・気候変動とジェンダー平等―どう相乗効果を生み出してきたか」『国際女性』No.36、2022年。

SDGサミット:2030年への折り返し

2023年9月18・19日、各国の首脳レベルが集まって国連SDGサミットが開催された。これは、2015年に国連で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下SDGsと略)の実施状況に関する包括的なレビューを行い、実施を促進するためのもので、4年ごとに開催されている。2023年は、SDGs達成の目標年である2030年に向けての中間点にあたる。

SDGsの進捗状況については非常に厳しい見方が示されており、グテーレス国連事務総長はサミットの開会演説で「目標の15%しか達成できていない。誰一人置き去りにしないではなく、我々がSDGsを置き去りにしようとしている」*1と進捗の遅れに危機感を示した。これは、サミットに先立って国連が発表した「持続可能な開発報告2023(特別版)」で、「約束(SDGsの実施)は危機に瀕している」*2と警鐘をならしていたことを受けてのことである。同様に、毎年「持続可能な開発報告書」*3を発表している持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)でも、「このままのペースでは2030年までに達成できる目標は一つもない」と進捗の遅れを指摘している。*4

このような危機感に基づき、残りの7年間どうすればよいか、事務局長はまずSDGsの達成に向けての資金の確保をあげ*5、そのためには国際的な金融のアーキテクチャー(制度と流れ)の変革の必要性を強調した。さらに、取り組むべき分野として、食料、再生可能エネルギー、デジタル、教育、ディーセント・ワーク(人間らしい良質な仕事)と社会的保護、地球の危機の6つをあげ、ジェンダー平等はこれらすべての分野に関係する横断的視点であるとして、今こそSDGsの達成に向けての行動の時と鼓舞した*6。また、国連が指名した世界の15名の独立した科学者による「グローバル持続可能な開発報告書 (GSDR)」*7は、2030アジェンダのタイトルである「変革」を中心に*8、SDGsの実施促進こそゲームチェンジ、世界を変える機会とみている。

日本におけるSDGsの進捗と課題

日本では、企業、行政、市民社会を問わずSDGsバッジをつけている人が多く見られ、各メディアはSDGsを冠した番組や紙面を提供している。その結果、日本のSDGsの認知度は90%以上と驚くほど高い*9。しかし認知度の高さとは対照的に、各国のSDGsの達成状況を指数化した国別順位では、日本は2017年の11位から2023年には21位へと順位を下げている*10。中でも目標5ジェンダー平等は、進んでいない目標の筆頭格である。

日本ではSDGsは、総理大臣を長とするSDGs推進本部を中心に、「SDGs実施指針」(以下実施指針と略)に基づいて実施される。実施指針は、国連のSDGサミットに合わせて改定されることになっており、2023年11月に改定案が発表され*11、国民からの意見募集が行われた。12月には新しい実施指針が発表される予定である。指針に基づき毎年「SDGsアクションプラン」が作成され、それに沿って取組が行われるが、実態は各省庁の既存のプログラムを充当するものが多く、SDGsが掲げる目標を達成するためのプランとは言い難い。

進捗状況の検証は、国連で毎年開催されるハイレベル政治フォーラム(HLPF)で各国が報告する自発的国家レビュー(VNR)*12が最も包括的である。HLPFでの報告は毎年50カ国前後に限られるため、各国にとっては4~5年に一度となる。日本の直近の報告は2021年であった*13。進捗を測るためSDGsの169のターゲットに沿ってグローバル指標が定められており、これに対応する日本のデータは外務省のホームページから辿りつけるが*14、収集していないデータもあるため、国連等の報告書と比べての進捗比較や現状把握が難しい。日本におけるSDGsの進捗状況の検証の点では説明責任(アカウンタビリティ)に課題があるといえる。

ジェンダー平等の進展を測る―ジェンダー主流化と交差性(インターセクショナリティ)

国連ウィメンはSDGsの実施を通してのジェンダー平等の達成を検証するために、毎年『ジェンダースナップショット』(以下スナップショットと略) を発表している*15。スナップショットは2つの点で日本におけるSDGsおよびジェンダー平等の推進に参考になる。第1にSDGsの目標5ジェンダー平等だけでなく、17の全目標を通じて、ジェンダー平等の進展と課題を具体的に示していることである。これは「2030アジェンダ」の前文において、SDGsの17の目標の達成のためにはジェンダー視点の主流化が重要と謳われていることを形にしたものといえる。第2の特徴は、交差性(インターセクショナリティ)の視点を示していることである。スナップショット2023からいくつかの目標を例に紹介しよう。

SDGsの目標9「産業・技術革新」では、女性はSTEM(科学・技術・工学・数学)およびICT分野で働く人の4分の1であること、世界の特許保有者に占める女性の比率は17%にすぎないことなどの性別データを紹介している。さらに、女性は技術を利用した暴力 (technology-facilitated violence) にさらされる危険が大きいことに言及し、目標9「産業・技術革新」の達成のためには、科学技術やAI分野でのジェンダー障壁を取り除く必要性やジェンダーに基づく暴力への取組の重要性を示唆している。ジェンダーに基づく暴力は目標5や目標16「公正と平和」で言及されることが多いが、目標9の達成にとっても大切であることが分かる。加えて目標9では、AIによる顔や声の認証システムが、肌の色が白い男性に比べて色が濃い女性の認証に問題があるとの知見を紹介し、開発者の性別や人種の偏りがもたらす問題点を指摘し、多様な人が開発に参画する必要性に注意を喚起している。

目標11「持続可能なまちづくり」に関しては、2050年には世界の女性と少女の7割が都市に住みその3分の1はスラムなど不適切な居住環境に住むとの予測を紹介し、ジェンダー平等の視点から居住分野への公的投資の必要性を強調している。また、女性の障害者は女性全体の18%と推定されるが、各国の障害者に関する政策の中で女性の権利の保護と推進を掲げている国は27%(190カ国中52)に過ぎないとして、目標11の実施に当たり、障害のある女性の居住の権利保障を含めるべきことを示唆している。日本でもまちづくりに障害者の視点を含めている自治体は少なくないがジェンダーの視点を提起しているところはどのくらいあるのか、検証が必要である。

目標13気候変動に関しては、2050年までに気候変動のために1億6千万人の女性と少女が極度の貧困に陥り、2億4千万人の女性が食料不足になる危険があるとの性別データを示しているだけでなく、国連気候変動枠組み条約のパリ協定に基づいて各国が提出を義務付けられている自国の温室効果ガスの排出削減に関する報告書である国が決定する貢献(NDC)において、ジェンダー平等に言及しているのは55カ国、女性を変革の担い手と位置づけているのはわずか23カ国に過ぎないとのデータも紹介している。このように、目標13気候変動の達成には目標1の貧困課題と目標5ジェンダー平等が関係することを示している。

また、スナップショット2023は特に高齢者女性に焦点を当て、高齢者女性の貧困だけでなく高齢者女性に対する暴力の問題に注意を向けている。超高齢社会の日本こそ今後のSDGsの実施に高齢者女性の人権や尊厳の問題を主流化する必要があることを喚起してくれる。スナップショットでは、単に性別データだけでなく多様な人びとの多様な課題を示そうとしており、日本におけるSDGsの実施の検証の参考になる。

最後に、日本でSDGsの実施を通じてジェンダーに関する進展が見られたことを一つ紹介しよう。SDGsの各テーマに対する認知度*16および理解度*17調査によると、テーマの一つであるジェンダー平等についての認知度は90.2%で、食品ロスに続いて第2位、理解度に関しては食品ロス、再生可能エネルギーに続いて第3位(22.8%)であった*18。少なくともSDGsはジェンダーという言葉に対するアレルギーを取り除くのには貢献したと言える。

SDGs実施指針改定案でも認めているように*19、日本における目標5ジェンダー平等の遅れは明らかである。このことは、今後2030までの後半の7年間にジェンダー平等への取組を加速し成果を上げれば、困難な課題に取り組んだ国としてポストSDGsに向けて世界の動きをリードすることも可能であることを意味する。日本のSDGs達成の鍵は、ジェンダー平等への取組にあるといえる。

*1 https://www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2023-09-18/secretary-generals-remarks-the-high-level-political-forum-sustainable-development

*2 https://unstats.un.org/sdgs/report/2023/

*3 https://www.sustainabledevelopment.report/reports/sustainable-development-report-2023/

*4 https://www.sustainabledevelopment.report/news/press-release-sustainable-development-report-2023/

*5 開発途上国における資金不足に関しては2023年2月「SDGs達成のための刺激策」を発表。
https://www.un.org/sustainabledevelopment/wp-content/uploads/2023/02/SDG-Stimulus-to-Deliver-Agenda-2030.pdf

*6 https://www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2023-09-18/secretary-generals-remarks-the-high-level-political-forum-sustainable-development

*7 https://sdgs.un.org/sites/default/files/2023-09/FINAL%20GSDR%202023-Digital%20-110923_1.pdf

*8 蟹江憲史「折り返し点を迎えるSDGs達成へ向けた課題」『国際秩序の危機―グローバル・ ガバナンスの再構築に向けた 日本外交への提言』、地球規模課題研究会報告書、日本国際問題研究所、2023 pp.57-66
https://www.jiia.or.jp/pdf/research/R04_Global_Issues/01-06.pdf

*9 電通、第6回「SDGsに関する生活者調査」
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2023/0512-010608.html

*10 SDGs市民社会ネットワークウエブ記事
https://www.sdgs-japan.net/single-post/sdsnreport2023

*11 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=350000208&Mode=0

*12 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/vnr/

*13 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/vnr/

*14 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/index.html

*15 https://www.unwomen.org/sites/default/files/2023-09/progress-on-the-sustainable-development-goals-the-gender-snapshot-2023-en.pdf

*16 「内容を詳しく説明できるくらい知っている」「簡単な内容なら説明できるくらい知っている」「説明できるほどではないが、一応内容まで知っている」「聞いたことがある程度」の合計

*17 「内容を詳しく説明できるくらい知っている」「簡単な内容なら説明できるくらい知っている」の合計

*18 https://www.dentsu.co.jp/news/release/2023/0512-010608.html

*19 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000262018

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Asian Breeze 99号(ウェブニュ-スレタ-)

99号目次

仁川デジタル性犯罪防止センターのワンストップ総合支援を中心とした
韓国におけるデジタル性犯罪の被害者支援

– キム ハンソル(仁川女性家族財団 IFWF)

 

GCFPの活動を通じた自己変革と地域住民への影響                         

– ソナム ドルジ(上級法務官 ゲレフ ソルムド行政区)

 

日常業務とその”発展”

– イェシェイ ラム(ブ-タン女性と子どもの国家委員会 副チ-フカウンセラ-)

 

ブ-タンの女性にかかわる困難な課題について                            

– ラデン ワンモ(CSO   RENEWプロジェクトマネージャー)

  *CSO (Civil Society Organization 市民社会組織)

 

 

I to T(Internet to Things あらゆるモノがインターネットに接続される。)が世界的な潮流となり、それに伴い、深刻なネット犯罪も多く発生していますが、近年韓国では、n番部屋事件などのデジタル性犯罪が大問題となっており、被害者保護について、北九州市の姉妹都市である韓国・仁川広域市から報告していただきました。 ブ-タンからは、JICAの研修で今年の5月から6月に来日された2名の行政官と、CSOの方に、日常業務に関連して、ジェンダ-問題について語っていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Asian Breeze 99号




目次

  1. 仁川デジタル性犯罪防止センターのワンストップ総合支援を中心とした韓国におけるデジタル性犯罪の被害者支援
    -キム ハンソル(仁川女性家族財団 (IFWF))
  2. GCFP の活動を通じた自己変革と地域住民への影響
    -ソナム ドルジ(上級法務官 ゲレフ市行政区)
  3. 日常業務とその”発展”
    -イェシェイ ラム(ブ-タン女性と子どもの国家委員会 副チーフカウンセラー)
  4. ブ-タンの女性にかかわる困難な課題について
    -ラデン ワンモ(CSO RENEW プロジェクトマネージャー)

※1 CSO (Civil Society Organization 市民社会組織)

※2 RENEW (CSO Respect, Educate, Nurture, Empowerment Women 女性を尊重し、教育し、育成し、エンパワーメントする

I to T(Internet to Things あらゆるモノがインターネットに接続される)が世界的な潮流となり、それに伴い、深刻なネット犯罪も多く発生していますが、近年韓国では、n 番部屋事件などのデジタル性犯罪が大きな問題となっており、被害者保護について、北九州市の姉妹都市である韓国・仁川広域市から報告していただきました。

ブ-タンからは、JICA の研修で今年の5月から 6 月に来日された 2 名の行政官と、CSO職員の方に、日常業務に関連して、ジェンダー問題について語っていただきました。

仁川デジタル性犯罪防止センターのワンストップ総合支援を中心とした韓国におけるデジタル性犯罪の被害者支援

– キム ハンソル
 仁川女性家族財団(IFWF)

(仁川女性家族財団/IFWF)
仁川家族財団は、仁川における男女平等の実現を目指している。2013 年仁川開発研究女性政策センタ-と仁川女性文化センタ-が統合して、発足した。当財団は 10 年前から、地域特性や女性の社会教育に即した女性・家族政策に関する研究を行ってきた。また雇用推進プロジェクトも先導している。2021年からは、ダ-ダルム・ジェンダー平等資料館とデジタル性犯罪防止対応センタ-、男女共同参画の文化を広めるために、「子ども愛&夢広場 運営支援団体」を運営し、市民との距離を縮めようとしている。

今後、財団は仁川市政府との協力体制を強化し、仁川女性の声を政策や事業に取り入れ、地域とのコミュニケーションのハブとしての役割を担いながら、私たちは仕事、生活、休息の調和のとれた仁川を創造するよう努めていく。

韓国では、「ソラネット事件」を皮切りにデジタル性犯罪に対する国民の意識が高まり、ウェブハードカルテル、ダークウェブ運営、n 番部屋事件*1など、さまざまなプラットフォームでデジタル性犯罪が繰り返し発生しているため、現在も国民の意識がさらに高まり続けています。 n 番部屋事件により子ども・青少年を対象としたデジタル性犯罪の深刻さが改めて浮き彫りとなり、韓国社会を震撼させ、デジタル性犯罪関連法(通称「n 番部屋予防法」)の改正につながりました。(仮訳)「性暴力犯罪の処罰等に関する特別法」及び(仮訳)「児童・青少年の性保護に関する法律」の追加・補完により加害者処罰の法的根拠が強化され、被害者を保護するための法的枠組みが整備されました。*2

法律で処罰されるデジタル性犯罪は、「違法撮影、同意のない配信、脅迫による配信、営利目的の違法撮影素材の所持・購入・保管・配信およびその扱い」、「フェイク映像の制作および配信、児童・青少年を 対象としたグルーミングや性的搾取素材の制作」、「サイバー空間におけるセクハラ」に大きく分類されます(キム・ヒジョンとパク・クァンミン、2020年)。*3 *4

しかし、これからの法規定にもかかわらず、法律で罰せられないタイプの犯罪が依然として存在し、発生し続けています。仁川デジタル性犯罪防止センターは、法律で定められたデジタル性犯罪に限定されない、被害者への総合的な支援を行っています。

仁川デジタル性犯罪防止センターは、韓国の自治体である仁川広域市が運営するデジタル性犯罪の被害者支援機関です。同センターは、支援過程における被害者のエンパワーメントに焦点を当て、2021 年 6 月 14 日に業務を開始しました。デジタル性犯罪によって困難に直面した個人に対して、カウンセリング、立ち直り、必要な支援などのさまざまなサービスを提供し、日常生活に戻れるようにすることを最終目標としています。

当センターの「ワンストップ総合支援」プログラムは、相談支援、デジタルデータの削除支援、個々のケースに対する支援、法的支援、医療費補助、ヒーリングプログラム支援など、さまざまなサービスから構成されています。相談支援では、電話や面談による相談を通じて被害者の心の悩みに対応し、被害者のニーズを把握し、適切な支援計画を立てます。デジタル削除支援サービスでは、被害者の同意なく撮影され、国内外のプラットフォームで配信された映像などを監視しています。配信された動画が捜査に利用されることを想定し、配信の様子を記録してから、早急に削除するよう要請しています。また、他のユーザーがアクセスできないようにブロックすることも要請しています。

仁川デジタル性犯罪予防センターが提供するケース支援プロセスは、警察や検察の捜査過程で被害者が情報から排除されないように、被害者が各段階で適切に対応できるようサポートします。刑事手続き中の弁護権を確保するために、被告には事件の進行状況や論争中の問題に関する情報を提供しています。

しかし、刑事手続きが 1 年以上と長期にわたることから、被害者は加害者の処罰状況などの情報から排除され、より不安を増幅させることがあります。さらに、裁判の過程で被告人が虐待行為を否認したり、被害者が証人として係争中に出廷するよう求められたりすることもあり、継続的な支援が必要となります。本センターは、刑事手続き全体を通じて担当弁護士と協力して専門的な法的支援を提供したり、被害者が保護され、自身の置かれている立場が理解できるようサポートしています。

最後に、本センターの重要な支援は、被害者の回復です。被害者が日常生活に復帰するためには、身体的外傷や心理的困難を克服することが非常に重要です。そこで、被害者の心身に対する治療費を直接支援するとともに、デジタル性犯罪被害者の日常生活への復帰を支援するために、被害者に合わせたヒーリングプログラムを運営しています。また、デジタル性犯罪の被害者は未成年であることが多いため、メディアを使ったアートや砂遊びなどのプログラムを実施し、被害者のニーズに対応しています。*5

さらに、仁川デジタル性犯罪予防センターでは、デジタル性犯罪の構造的な本質は、女性蔑視、子どもおよび青少年の性的虐待、性的搾取産業を組み合わせたジェンダーに基づく暴力であると認識しています(Kim, Han-gyun, 2020)。*6 したがって、当センターは、デジタル性犯罪の本質が女性の身体を商品化する社会構造の問題であるとの理解を促し、啓発に努めています。さらに、青少年をデジタル性犯罪のリスクにさらす主な発生形態や手口の共有、デジタル空間の安全な利用に関する教育など、デジタル性犯罪の防止に向けた活動も行っています。本センターは今後もデジタル性犯罪の撲滅に向け、被害者の声を反映した予防・対応活動を継続していきます。

デジタル性犯罪には地域や国の境界がないため、デジタル機器が普及し、オンライン環境へのアクセスが普遍化すれば、空間的な制約を受けずに問題が発生し続けることになります。それゆえ、私たちは国際連携の必要性を強く感じており、デジタル性犯罪撲滅のための韓国と日本の国際的な連携を期待しています。

*1 講談社現代ビジネスFRAUのHPより引用

https://gendai.media/articles/-/97088?page=1&imp=0

*2 「性暴力犯罪の処罰等に関する特別法の一部を改正する法律案」第377回韓国国会 第2024883号(2020年4月29日)。

*3 キム・ヒジョン、パク・クァンミン. (2020).「デジタル性犯罪の概念・類型・実態と改善方法.成均館法学論集」32(4), 237-276。

*4 韓国法務省「デジタル性犯罪の類型」生活法情報、

https://easylaw.go.kr/CSP/CnpClsMain.laf?csmSeq=1594&ccfNo=1&cciNo=1&cnpClsNo=1(最終閲覧日:2023年5月7日)。

*5 センターの支援詳細については、ビデオ「A Day in the Life of Daon」(https://youtu.be/whKJBoj6ExQ)をご覧ください。

*6 キム・ハンギュン(2020 年)。デジタル性犯罪の阻止と対処 – テクノロジーを介したジェンダーに基づく暴力の犯罪化。「The Justice」韓国法学院、178、369-392

GCFPの活動を通じた自己変革と地域住民への影響

– ソナム ドルジ
 上級法務官 ゲレフ市行政区

【はじめに】
私はブータン王立政府の上級法務官で、現在はゲレフ市行政区に勤務しています。行政区の GCFP(Gender and Child Focal Point、ジェンダーと子どものフォーカルポイント)を任されてから、もうすぐ2年になります。フォーカルポイントとして、私は国内の女性と子どもに対する暴力に関するさまざまなワークショップや研修に参加する機会に恵まれました。このようなプログラムや、参加者仲間、特に CBSS(Community Based Support System コミュニティベースのサポ-トシステム)のボランティアたちと分かち合う経験を通じて、女性と子どもに関するさまざまな問題を理解することは、私にとって大いに意義ある経験でした。さらに、私は日本で女性と子どもの保護とケアに関する国別研修に3週間参加する機会に恵まれました。これまでに得た知識と経験を通じて社会的弱者に貢献することを目的に、私もボランティアとして CBSSに参加しています。

【GCFPの役割】
GCFPとして、私は以下のような多くの責任を担 っています:
a. 保護オフィサー:DVや児童虐待のサバイバーのアセスメントを行う。
b. 保護観察官:法律に抵触する児童の虐待に対処する。
c. TWCC:スロムデ行政区女性と子どもの委員会女性と子どもに影響する重大な問題や課題に着手する。
d. 調整役: NCWC (女性と子どものための国家委員会) 、PEMA (ペマセンタ-, ブ-タン女王の名前を冠した王命により設立されたメンタルヘルスを担当する機関)事務局、ブータン王立警察、地方自治体、RENEW (CSO)/CBSS ボランティアなど、他のサービス提供者との連携。

【自己変革】
自己変革とは一般的に、自己成長、自己改善、望ましい状態への達成を目指し、自分自身に重大かつ永続的な変化をもたらすプロセスを指すことが多いと思います。しかし私は、GCFP として果たす役割という観点から、私にとっての自己変革とは何かを簡単に述べたいと思います。保護やケアを必要とする女性や子どもたちとは、一体感や相互のつながりがあります。私は偏見のないアプローチを身につけ、女性や子どもたちの課題を、健全な地域社会を築くための不可欠な要素としてとらえるようになりました。私は、困難な状況下でも耐え抜く情熱と、解決策の一端を担う誇りを身につけることができました。私は GCFP の役割を単なる仕事ではなく、むしろ共感をもって地域社会に奉仕する機会として受け止めています。重要性と緊急性を考慮し、週末も対応できるようにしています。

【異なることをする】
ブータンには女性や子どもたちが直面する課題に対処するための関連法や政策があることは誰もが認めるところですが、あらゆる課題、言い換えれば、ひとつひとつに特化した法律の規定はありません。それゆえ私は、本来、法律が DV サバイバーや困難な状況にある子どもたち、法律に抵触する子どもたちを救い、全面的に支援するためのものであることから、共通の基盤に立ったアプローチで問題に取り組んでいます。その際、法律の規定に根本的に触れることなくサービスを提供するために、計算づくでリスクを取り、行動に移すようにしています。そうでなければ、支援やサポートが遅れ、サバイバーの心理的な幸福感がさらに損なわれてしまうからです。

【社会心理学的支援の補完】
心理学が進歩し、カウンセラーが素晴らしいサービスを提供するようになった現在、トラウマからのをヒ-リング望む一握りのサバイバーと加害者が、私が提供する双方の合意による解決策を求めています。そこで私は、親密なパートナーとの間にしこりが残らないように、間に入り、友好的に問題を納める提案をしています。サバイバーと加害者から提起され、ヒアリングされた懸念を双方が認めるということは、当事者間のコンセンサスを得る上では、十分な注意を払い慎重に対処していかなければなりません。

【変革の担い手】
地域社会や家族の平和は、公正で調和のとれた社会の不可欠な要素です。女性と子どもの問題について研修を受け、理解し、人間の行動の弱さを受け入れてきた私の責任は、加害者の態度、行動、プロセスを検証して、アドバイスを与え、前向きな変化を促進し、改善することです。人々を励まし、人々との協力・共存を受け入れる動機づけを行っていく必要があると思っています。問題に対処するために、代替的な解決策を探し出し、前向きに考えることを厭わないと自負しています。私が提供するサービスの信頼と信用を築きあげることで、私の行動によって影響を受ける人々の視点や懸念を理解できるようになります。共感し、加害者だけでなくサバイバーの感情面にも積極的に働きかけることが不可欠です。
加害者と同様に、サバイバーに変化をおこすた めには、効果的なコミュニケーションが不可欠です。問題意識をもった個人個人が変革の担い手であることは、現状のコンフォート・ゾーンから一歩踏み出し、新しい経験を受け入れることでもあると思っています。

【現場の現実】
とはいえ、女性や子どもの問題に取り組む際、一見どんなに些細なことであっても、ケースを総合的に評価すると、問題の複雑さに気づくことがあります。それゆえ、友人、家族、指導者、専門家などの支援システムと関わることが、指針を与えてくれます。多くの場合、ケース対応には協力や協調も必要となるものです。それゆえ私は、関連するサービス提供者や関係者と良好な人間関係を保ち、包括的な方法で問題に対処するようにしています。

【昔からある伝統の価値観で遠回りをしてみる】
ブータンは CEDAW(女子差別撤廃条約)とConvention on the Rights of the Child(子どもの権利条約)という 2 つの重要な条約を批准しているため、それらに明記されている国際的なベストプラクティスからインスピレーションを得ることは少なくありません。従って、私たちはそれぞれの地区 の支援を受けて、女性と子どもに対する暴力を予防し、彼らを保護し、ケアするためのサービスを提供するために、仏教界の代表者・指導者を積極的に活動するメンバーとして関わってもらうことを検討しています。

【結論】
地域社会のダイナミックな特徴や、それらが人間関係に直接的な影響を与えること、またその逆も然りであることを考えると、女性と子どもが直面する課題は、今後さらに複雑になっていくでしょう。しかし、自分の職責を超える献身的な個々の活動は、弱い立場の人々に大きな影響を与えると思っています。

注:略語

GCFP(Gender and Child Focal Point ジェンダーと子どものフォーカルポイント)

CBSS(Community Based Support System コミュニティベースのサポートシステム)

TWCC(Thromde Women and Children Committee スロムデ行政区女性と子ども委員会)

NCWC(National Commission for Women and Child 女性と子どものための国家委員会)

PEMA(PEMA,「The Centre was established upon the Royal Command of Her Majesty the Queen of Bhutan to spearhead Bhutan’s national response to mental health」ブータン女王陛下の勅命により、ブータンのメンタルヘルスに対する国家的対応の先頭に立つために設立されたセンター)

RENEW (CSO Respect Educate, Nurture, Empowerment Women 女性を尊重し、教育し、育成し、エンパワーメントする)

日常業務と、その”発展”

– イェシェイ ラム
 ブ-タン女性と子どものための国家委員会副チーフカウンセラー

右側が筆者

私はブータンの女性と子どものための国家委員会(NCWC)で専任カウンセラーを務める、イェシェイ・ラムです。自身の職務に対しては全力で尽力しています。 保護サービスの責任者として、主な責務は、法で守るべき子どもを含む困難な状況にある子どもと女性を保護するための体系的かつ確立されたサービスを確保することです。

私は、ジェンダーに基づく暴力防止と子どもの保護のための標準的な業務規程にある手順に従って、関係機関に適切な介入や安全な円滑な手続きを行い、ジェンダーに配慮した働きかけと子どもに配慮した視点を通じて、女性と子どもの権利が確実に守られ、高められるよう尽力しています。

最近私の所属している計画立案部門は、女性と子どもの保護サービスの監視に加え、その法的、政策的、制度的、能力構築の強化を含め女性と子どもの権利を促進し保護する機能を果たしています。ブータンの女性と子どものための国家委員会は、ジェンダーと子どものフォーカルポイント(GCFP)と緊密に連携しており、現場でジェンダーと子どものケアの問題を主流化して対処していく上で重要な役割を果たしています。より良いサービスを提供するためには、十分な技術と知識が必要であることを認識し、女性と子どもに関連する課題に対応するために GCFP の専門性を強化することが極めて重要であると思います。

まさにこの目的のために、またさらなる協力とパートナーシップを構築するために、日本の独立行政法人国際協力機構(JICA)と NCWC は共同で、GCFP、NCWC 職員、その他の関係者を対象に、女性と子どもの保護とケアに関する1ヶ月間の能力開発プログラム研修を開催しました。

この研修のおかげで、ジェンダーに基づく暴力家庭内暴力、そしてそのサバイバーへの影響についての理解が深まり、より大きな観点から持続可能な開発に向けた取り組みも高まってきました。また、女性や子どもを取り巻く、日本の法制度や体制のベストプラクティスを学ぶことができたのも大きな利点です。

JICA がこの研修プログラムをアジア女性交流・研究フォーラム(KFAW)に委託したことで、ブータンの現状に合った申し分のない研修が出来たと思います。よく考えられた研修プログラムは参加者のニーズに合っていましたし、2回に分けて実施された研修は、JICAにとって実に大きな投資であったはずです。その重要性を理解し、私たち参加者は、それぞれのコミュニティで日本から学んだ経験を生かし、計画やプログラムを実行する決意を表明しました。

NCWCとUNFPAが合同で、WHOの資金援助を受けて、全国から集まった関係者を対象に3日間の対面研修を開催しました。日本で得た経験は、研修でのセッションに大きな自信を与えてくれました。

最近の私の任務は、ブータンにある国連出先機関事務局(UNFPA、WHO、UNICEF、UNDP)と連携し、女性に対する暴力を防止するための「RESPECT フレームワーク」の実施に焦点を当てたワークショップを展開することでした。

この取り組みは大成功を収めました。3日間のワークショップを2回に分けて行い、GCFPだけでなく県のキーマンに対しても知識とガイダンスを提供し、効果のある実践例を紹介しました。女性に対する暴力を防止するためのエビデンスに基づいた戦略をスケールアップするためのリソースやツールへのリンクも共有できました。RESPECTの各文字は、7つの戦略のうちのそれぞれを象徴しています。

日本での研修のおかげで、このワ-クショップのセッションでは、自信を持ってプレゼンテ-ションの展開をする事が出来ました。

同様に、北九州市の児童虐待防止への取り組みや犯罪者更生制度に関するプログラムも、他のプログラムと相まって、法律と抵触する子どもたちの調整と支援における私の取り組みを強化し、非行少年の更生と安全な社会復帰を後押しすることに役立ちました。この充実した講義は、2023 年に新たに選ばれた地区教育担当官や学校長を対象とした、国内の子どもたちの状況についてプレゼンテーションを行う際や、最近、教員や保健師を対象に実施した非行少年や児童虐待などの早期発見や、女性や子どもの安全を保ちつつ専門医などに紹介する研修の際にも役立ちました。

最後に、ブータン王国NCWCを代表して、このような機会を与えてくださったJICA事務所に感謝の意を表するとともに、素晴らしい研修コースを企画してくださったKFAWに心からお礼を申し上げます。

注:略語

NCWC(National Commission for Women and Children 女性と子どものための国家委員会)

GCFP(Gender Child Focal Point ジェンダーと子どものフォ-カルポイント)

UNFPA(United Nation Population Fund 国際連合人口基金)

WHO ( World Health Organization 世界保健機構)

UNICEF (国際児童基金 ユニセフ)

UNDP (United Nations Development Programme 国際連合世界開発計画)

ブ-タンの女性にかかわる困難な課題について

– ラデン ワンモ
 CSO RENEW プロジェクトマネージャー

ブ-タンはセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、青少年、ジェンダー平等に関する法律の制定や政策・規則の策定において前進を遂げてきました。強力な政治的コミットメントと支持的な法的・政策的枠組みがあるにもかかわらず、ブータンではジェンダーに基づく暴力が依然として問題となって、政策と法律の確実な実施という課題に直面しています。

女性と少女に対するジェンダーに基づく暴力は、健康や福祉、生産性、国家開発などに広範な影響を及ぼす、今まさに最も重大な社会問題のひとつです。家庭内暴力を防止し、サバイバーに必要な支援を提供するため、2013 年にブータンの家庭内暴力防止法が制定されました。それ以来、女性と子どものための国家委員会(NCWC)が「主務官庁」として、市民社会組織や関連パートナーと協力して、この法律の実施に向けて多くの取り組みが行われています。

私は、RENEW(Respect, Educate, Nurture, Empower Women 女性を尊重し、教育し、育成し、エンパワ-メントする)組織でプロジェクト・マネージャーとして働いています。私の個人的な考察や、自国の女性と少女へのサービス提供者として働いて経験したことを書き留めておけることは、私の特権です。今日、ここでお話しすることは、私の個人的な経験と、RENEW組織での継続的な奉仕活動で観察したことに基づくもので す。私は 2012年1月から 2023年1月までアシスタント・カウンセラーとして働いています。私個人的として、1,000人以上のDVやジェンダーに基づく暴力のサバイバーを見てきましたし、多くの少女や女性にサービスを提供してきました。

RENEWは、DVやジェンダーに基づく暴力の影響を受けている家族に力を与えるために、特に弱い立場にある女性や子どもたちに焦点を当て、ギャリュム・サンゲ・チョデン・ワンチュク王太后陛下によって設立された市民社会組織(CSO)です。RENEW はブータンで、最初で唯一のこの種のCSOであり、個人、夫婦、家族のカウンセリング、法的支援、生活技能訓練、セーフハウス(隠れ家)、医療支援、教育奨学金、ケースマネージメントサービス、SRHクリニックなどのサービスを開始しました。

RENEWは、このような暴力の蔓延と影響についての認識を高め、サバイバーに支援サービスを提供し、政策変更と法改正を提唱するために、たゆまぬ努力を続けています。地域レベルでの意識向上と感化に向けた RENEW組織の努力により、ジェンダーに基づく暴力のさまざまな形態、女性の生活への影響、必要に応じて適切なサービスを受けることの重要性についての知識と理解が深まったことが、大きな成果につながっています。また、女性や少女に対する暴力の根本的な原因や背景・動機について、周囲の人々や地域社会が理解を深めました。

RENEWはまた、ブータンのあらゆる場所でサービスを提供するために、全国のボランティア、関係者、私たちのパートナーのために、研修や能力開発プログラムを実施しています。2021年だけでも、ソーシャルメディア、ウォークインクライアント、ヘルプライン、全国のボランティアからの紹介といったプラットフォームを通じて、774件のDV/GBV(Gender Based Violence ジェンダーに基づく暴力)ケースにサービスを提供してきました。私たちが扱うケースに関しては、経済的虐待、身体的虐待、性的虐待、精神的虐待といった様々な形態の虐待を含む、あらゆる異なる状況に対してサービスを提供しています。

ほとんどのブータンの女性は、経済的に配偶者に依存していること、恐怖や安全への懸念、サポート体制の欠如、感情的な愛着や愛情、文化的・宗教的要因などから、その関係というのは虐待関係のまま留まっています。私は在職中、私たちのサービスを利用し、心の癒しやエンパワーメント、法的支援へのアクセス、経済的自立、支援ネットワークの構築、虐待の連鎖の断ち切りなど、人生に前向きな変化をもたらした多くの女性や少女に出会ってきました。

サービスには個人差があり、すべてのサバイバーが同じ良い変化を経験するわけではないことを知っておくことは重要だと思います。

しかし、RENEWが提供した支援とサービスは、女性たちが生活を立て直し、明るい未来に向かうための大きな助けとなりました。

ブータンの女性が直面する問題は、複雑かつ多面的であり、前向きな変化をもたらすためには、私たちの関心と全体的で共同の努力が必要です。近年進展が見られるとはいえ、ブータンのジェンダー平等を達成するためには、まだやるべきことがたくさんあることは明らかです。国民総幸福量(GNH)へのコミットメントで知られるブータンは、ジェンダー平等の推進をリードする可能性を秘めています。

さらに、政府機関、市民社会組織、個人を含むすべての利害関係者を、女性の問題をめぐる会話に参加させることが不可欠です。意識を高め、固定観念に挑戦し、変化を提唱することで、私たちは一丸となって、女性が成長し、潜在能力を最大限に発揮できる環境を作ることができます。

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Asian Breeze 98号 (ウェブニューズレター)

  • 経済成長、気候危機と人々の幸福
    – 松下 和夫
    京都大学名誉教授、日本GNH学会会長、
    (公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー


  98号 2023年9月発行


Asian Breeze 98号




Asian Breeze 98号

経済成長、気候危機と人々の幸福

– 松下 和夫
 京都大学名誉教授、日本GNH学会会長、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー

「地球沸騰化の時代」の到来

2023年7月27日、国連のグテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と述べました[1]。これは世界気象機関(WMO)と欧州委員会のコペルニクス気候変動サービス(C3S)による、「7月が人類史上最も暑い月となることを裏付ける公式データの公表」 を受けた記者会見で述べたものです。

さらに事務総長は、次のように述べています。

「これらはすべて、科学者の予測や度重なる警告と完全に一致している。 唯一の驚きは、その変化の速さである。 気候変動は今ここにある。 恐ろしいことだ。 そしてそれは始まりに過ぎない。」。「世界の気温上昇を1.5℃未満に抑え、気候変動の最悪の事態を回避することはまだ可能だ。 しかし、それは、劇的で早急な気候変動対策によってのみ可能なのだ。加速する気温上昇は、加速する行動を求めている。私たちはまだ最悪の事態を食い止めることができる。 しかし、そのためには、猛暑の1年を野心の1年に変え、気候変動対策を加速させなければならない」

経済成長と人類の幸福

産業革命以降の経済成長は、人類に豊かさをもたらし、絶対的貧困は縮小し、人類の寿命は伸び、人口は増大しました。経済成長は欧米などの先進国から始まり、20世紀後半からは、経済のグローバル化により、途上国や中進国にも広がりました。その一方、急激な人口増加と経済成長は、CO2排出量や資源の消費を拡大させ、環境破壊、資源枯渇、気候変動、生物多様性の喪失などの問題が引き起こされました。現在地球の自然環境は持続可能性の限界に近づいており、このまま放置すると将来、人類の生存基盤が脅かされる可能性もあります。

そもそも経済成長の目的は、所得を高めて生活を豊かにすることです。では、所得が増えれば人は本当に幸福になるのでしょうか。米国の経済学者イースタリンは、一人当たりの実質所得が上昇したにもかかわらず、生活満足度が向上していないことを示しました(これはイースタリン・パラドックス[2]と呼ばれています)。その後の幸福に関する多くの研究が明らかにしたことは、経済成長が必ずしも幸福感の向上につながらないことです。経済成長の中身が問われているのです。

経済の発展は、本来「惑星の限界」[3](プラネタリー・バウンダリー、図1参照)のなかで許容される範囲内で営まれるべきものです(英国の経済学者ケイト・ラワースはこれを「ドーナツ経済」[4] (図2参照)と呼んでいます)。

図1.惑星の限界(出典は注3)

図2.ドーナツ経済の概念図(出典は注4)

図2のドーナツ型の図の外縁が表すのは、地球環境の限界を崩さずに人間の活動ができる「環境的な上限」のラインです。一方で、ドーナツの内側(中心に開いた穴の部分)の輪が表すのは、すべての人の生活の基本となる、食糧や住居、教育や所得などの「社会的な基盤」です。そして、このドーナツの外縁の「環境的な上限ライン」と内側の輪の「社会的な基盤」の2つのラインの間を、「人類にとって安全で公正な範囲」であるとし、この範囲内での経済活動によって、惑星限界を超えずに社会的な基盤を確保しつつ、人類の福祉の向上が達成できるとしています。

このドーナツ経済が確立されれば、SDGs(持続可能な開発目標)が求める持続可能で包摂的な経済成長と繁栄の共有と働きがいのある人間らしい仕事のための条件を、各国の発展段階・能力の違いを考慮に入れて作り出すこと、が達成可能になるのです。

ブータンの国民総幸福(GNH)が示唆するもの

経済成長が「目的」ではなく、人々の幸福を向上させるための「手段」であることを明確にしているのが、ブータンのGNHの考えです。

ブータンでは国民総生産(GDP)に代わる国の目標として、GNHを掲げ、それを現実の行政における政策統合の指針として生かしています。

GNHを提唱したブータンの第4代ワンチュク前国王は次のように考えました。

「国民が望むものはつきつめれば幸せである。その定義は人によって異なるが、それは物質のみでは得られず、最低限の物質的豊かさに加え、家族や地域社会のきずな、人と自然の和、国民が共有できる歴史、文化が大事である。」 これらをワンチュク国王はGDPにかわるGNHと表現したのです。

それでは幸せの実現という目標を、どのようにして現実の政治や行政の仕組みに反映できるでしょうか。ブータンではGNHをスローガンにとどめず、実現のための指標を開発し具体的な政策評価のプロセスを行政の中に制度化する取り組みを進めています。2008年の憲法第9条2項では、「政府の役割は、GNHを追求できるような諸条件の整備に努めることにある」と明記しています。

GNHコミッションによると、GNHは哲学であり、経済理論であり、実際的な政策上の目的です。伝統文化と近代科学を融合する哲学としてのGNHは、開発の優先順位の転換につながり、経済理論としてのGNHは、GDP批判を展開し、人々の精神的・物理的・社会的厚生の向上を量的・質的に重視しています。政策上の目的としてのGNHは、持続可能な発展を達成するための詳細な優先順位と手段を明示しています。

ブータン国家環境戦略における持続可能な発展の定義は、「独自の文化的統合と歴史的遺産、そして生活の質を将来の世代が失わないように今日の発展と環境を維持する政策的意思と国家的能力」とされています。第5代のワンチュク現国王は、その演説で、「GNHは、優しさ、平等、思いやりという基本的な価値観と経済的成長の追求の架け橋となると信じています」と表現しています 。

GNHは、①持続可能で公平な社会経済的発展、②環境保全、③文化振興、④よい統治の4つの柱からなり、これらはさらに、①生活水準、②健康、③教育、④生態学的健全性、⑤文化、⑥心理的幸福、⑦ワーク・ライフ・バランス(時間の使い方)、⑧地域の活力、⑨よき統治、の9つの領域に分けられています。

GNHの考え方に基づき、政策の優先順位が再評価され、GDPにかわって人々の精神的・物理的・社会的厚生の向上を量的・質的に評価する指標が開発されています。そしてブータンでは数年ごとにこれらの指標に基づく調査が実施され、それが公共政策や資源配分のあり方の改善に生かされています。GNHは、人間開発指数やGDPなどの指標を否定するのではなく、それぞれの特徴と役割を十分認識し、補完的な関係においています。

しかしブータン経済や環境の持続性には多くの課題が存在します。気候変動のような新たな脅威も現実化し、グローバリゼーションとIT化など情報技術の進展により、現代世界の消費主義文明は容赦なくブータンにも流入し、ブータン国民の伝統的価値観に変化が生じることも予想されます。厳しい自然環境や地政学的な状況の下で、GNHをよりどころとして、国民の厚生と幸福を中心に据えて、人間開発と国の発展を模索するブータンの今後は、持続可能な発展と人々の幸福の向上を考える意味で他の国々にも多くの示唆を与えるものです。

[1] https://news.un.org/en/story/2023/07/1139162

[2] https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3743147

[3] https://www.stockholmresilience.org/research/planetary-boundaries.html

[4] https://doughnuteconomics.org/about-doughnut-economics

松下 和夫氏 略歴

京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー、日本GNH学会会長。1972年に環境庁入庁後、大気規制課長、環境保全対策課長等を歴任。OECD環境局 (本部パリ)、国連地球サミット (UNCED)事務局(上級環境計画官、本部ジュネーブ)でも勤務。

2001年から2013年まで京都大学大学院地球環境学堂教授 (地球環境政策論)。環境行政、特に地球環境政策・国際協力に長くかかわる。持続可能な発展論、環境ガバナンス論、気候変動などを研究。

主要著書に、「1.5℃の気候危機」(2022年)、「気候危機とコロナ禍」(2021年)、「地球環境学への旅」(2011年)、「環境政策学のすすめ」(2007年)、「環境ガバナンス」(2002年)、「環境政治入門」(2000年)、”Environment in the 21st Century and New Development Patterns” (2000年)など

図1.惑星の限界(出典は注3)

図2.ドーナツ経済の概念図(出典は注4)

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Eメール→info@kfaw.or.jp


Asian Breeze 97号 (ウェブニューズレター)

  • G7でジェンダー平等は加速したか、それとも単なるパフォーマンスとしての「フェミニスト外交」か?
    – 山口 慧子 
    (W7 Japan実行委員)

  • CSW67の会議概要報告
    – 堀内 光子 
    (KFAW理事長)

  • CSW現地レポート報告
    – 奥崎 鈴彩
    (株式会社GOTENリゾート、
     日本BPW連合会会員、
     北九州市立大学外国語学部英米学科卒)

  • NGOフォーラム パラレルイベント参加報告
    – 上野 真由子
    (KFAW国際交流課職員)


  97号 2023年8月発行


Asian Breeze 97号




目次

  1. G7でジェンダー平等は加速したか、それとも単なるパフォーマンスとしての「フェミニスト外交」か?
    -山口慧子(W7Japan実行委員)
  2. CSW67の会議概要報告
    -堀内光子(KFAW理事長)
  3. CSW現地レポート報告
    -奥崎鈴彩(株式会社GOTENリゾート、日本BPW連合会会員、北九州市立大学外国語学部英米学科卒)
  4. NGOフォーラム パラレルイベント参加報告
    -上野真由子(KFAW国際交流課職員)

5月19日から21日に、G7広島サミットが開催されました。今号のAsian Breezeでは、そのサミットにW7(Women7)として関わられた山口慧子氏の記事をお届けします。

また、KFAWでは5月30日に、「第67回国連女性の地位委員会(CSW67)報告会」を開催しました。CSWは経済社会理事会の機能委員会の一つで、ニューヨークの国連本部にて毎年3月頃に開催され、ジェンダー平等に関する政策立案を行っています。

KFAW主催の報告会の登壇者は、KFAW理事長の堀内、認定NPO法人日本BPW連合会員の奥崎さん、KFAW国際交流課職員の上野です。

この記事では、それぞれの報告内容を掲載します。

G7でジェンダー平等は加速したか、それとも単なるパフォーマンスとしての「フェミニスト外交」か?

– 山口 慧子
 W7 Japan 実行委員

2023年5月19日から21日まで広島でG7サミットが開催され、ウクライナのゼレンスキー大統領も電撃参加したことは、皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。各国首脳間でどのような議論がなされ、特にジェンダーについて、何が合意されるのかを見届けるべく、今回G7広島サミットに参加しました。

サミットは首脳会談の場ですが、そこに私が参加の機会を得たのは、エンゲージメント・グループに関与してきたことが理由になります。近年、G7の議論にそれぞれの分野から提言を行う活動が盛んになっており、そのような活動を公式的な形で行うグループをエンゲージメント・グループと呼びます。その一つに、市民社会の立場からジェンダー視点で提言を行う「W7」があります。G7が世界のGDPに占める割合は4割に及びます。こうした影響を認識し、W7では一貫してグローバル・サウスからの参加を確保してきました。同時に、障害や性的指向、性自認、年齢、民族など複数の属性に基づき、差別や抑圧は交差的に作用するという考え方「インターセクショナリティ」の視点を重視し、これまで十分聞かれてこなかった声がW7としての主張(コミュニケ)に反映されるよう努めました。私はW7の実行委員として、G7広島サミットでの首脳宣言ができるだけジェンダーに敏感なものになるよう動向を注視すべく、参加をしたというわけです。

サミットではウクライナ情勢や核軍縮が大きなテーマとなりましたが、ジェンダーについても議論がなされました。サミットの成果文章である首脳宣言には、前回に引き続きジェンダーに関する項目*1が設けられ、介護や育児といった「ケアワークやケア経済への支援を提供することにコミットする」との記述が含まれました。*2 また、SRHR(性と生殖の健康と権利)の保障がジェンダー平等と、性的指向や性自認を含む多様性を支援する上で不可欠かつ変革的な役割を果たすとの認識が表明されたことは評価に値すると思います。*3

一方で、全体を通して、これらの宣言を実行していくための具体的な政策についての記述は見られません。例えば、パラグラフ44には「今後数年間にわたり、ジェンダー平等並びに女性及び少女(女児)*4のエンパワーメントを促進する、我々の二国間で割当可能なODAの割合を共同で増加させる」とありますが、時間枠を示した上での具体的な財源的公約が表明されるべきでしょう。理念を語るだけでは十分でなく、G7をはじめ政治に求められているのは、資金拠出を含む具体的措置だからです。

また、サミットを広島で開催した理由として、岸田首相は、「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない」と語りました。そして、その広島で、ウクライナへの軍事支援を強化することが合意されました。紛争が女性と少女に対し不均衡に影響を及ぼすことから、軍事費の削減を含む非暴力的な外交政策を求めてきたW7としては、広島サミットが平和を謳いながらも武器供与の機会となったことに強い懸念を覚えます。

別の着目点として、昨年のドイツに引き継ぎ、今回の首脳宣言にも性的マイノリティに関する記述がありました。「LGBTQIA+の人々の人権と基本的自由に対するあらゆる侵害を強く非難する」との一文が用いられたことは、前年度と比較して前進した点だと言えます。*5

性的マイノリティの権利保障に関しては、今年新たなエンゲージメント・グループ「P7(Pride7)」が設立されました。W7とP7は広島サミットの期間中、共同記者会見などを連携して行いました。ジェンダーに基づく差別は男女間だけでなく、異性愛やシスジェンダーといった規範的なセクシュアリティから逸脱しているとみなされる性的マイノリティに対しても向けられているため、連携することが重要です。

日本では、広島サミット後に「LGBT理解増進法」が成立・施行されました。しかし、あくまでも「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するもの」とされ、マジョリティへの配慮が滲む内容になっています。法律が施行された現在、人権侵害を強く非難するどころか、むしろ、特にトランスジェンダーを女性の安心・安全を脅かす存在とみなし、排除するような動きが強化されるようになったことに対し、P7の委員からは広島サミットでの宣言は単なる外交的パフォーマンスだったのかと、厳しい批判がなされています。

広島サミットから約1カ月後の6月24日から25日には、日本で初めてとなる男女共同参画担当大臣会合が開催されました。同会合でW7の代表者3名は、各国の大臣と同様に、終始議論の場に参加・発言する機会を与えられました。男女共同参画大臣会合に市民社会組織であるW7が有意義な形で参加できたことは、インクルーシブな意思決定のあり方として高く評価できる点だと感じます。

会の最後に採択された男女共同参画大臣宣言では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや世界各国で続く紛争、オンラインなどで、ジェンダーを起因とした差別や暴力がますます複雑化し、解決が困難になっていると分析がなされています。そのような状況を受けて、同宣言はこう締めくくられています。

「我々は、全ての女性、少女(女児)、LGBTQIA+の人々の人権と尊厳が完全に尊重され、促進され、保護される社会の実現に向けた努力を継続する。我々は、ジェンダー平等に対するバックラッシュと戦うことにコミットする。」

市民社会組織の一員として、この宣言に恥じないようG7の各国が、日本が、実質的な行動を起こし、ジェンダー平等を推進していくよう、これからも政治状況を注視し、声を上げていきたいと思います。

*1 『G7広島首脳コミュニケ』パラグラフ42~44に該当する。

*2 パラグラフ36

*3 パラグラフ43

*4 引用部分の「女児」という表現は、外務省による仮訳からの引用表記ですが、KFAWでは原則的に「少女」を使っています。したがって本文中では、「少女(女児)」と表記しています。

*5 パラグラフ43

山口 慧子氏 略歴

W7Japan実行委員、Generation Equality Youth Task Forceメンバー、公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター理事。

ジェンダーに関する国際政治のプロセスにより有意義な若者の参加と意見の反映を促進するために、北京行動綱領採択から25周年を記念し、UN Womenにより設置された”Generation Equality Youth Task Force”のメンバーとして、また公益財団法人日本YWCAの幹事として、草の根のレベルから国際政治の場までのさまざまなレベルで、ジェンダー平等に資する若者主体および多世代間協働での運動構築や戦略策定、ジェンダー平等を目指すプログラムやキャンペーンのコーディネート、啓発活動を担ってきた。

著書に「ウィズコロナ・ポストコロナを見据えた若年女性のエンパワメント」『NWEC実践研究』第12号、2022年。

CSW67の会議概要報告

– 堀内 光子
 KFAW理事長

CSW67の優先テ-マは「ジェンダー平等とすべての女性・少女のエンパワーメント達成のためのデジタル時代における革新、技術変革及び教育」でした。

これについての議論は代表団のみで行われていましたが、デジタル社会の課題として、UN Womenは課題を上記のようにとらえています。デジタルの世界では女性差別や排除が多くあります。AI関係の労働人口における女性の割合は22%にとどまっており、AIシステムの44.2%がジェンダー・バイアスを持っていると言われています。

今回のCSW67では、初めてユ-スフォ-ラムが開催されました。詳細については十分な情報はありませんが、ジェンダー平等に向けて、一段と勢いを増しているように思います。

https://www.unwomen.org/en/csw/csw67-2023

CSW現地レポート報告

– 奥崎 鈴彩
 株式会社GOTENリゾート、日本BPW連合会会員、北九州市立大学外国語学部英米学科卒

CSW67には、現地時間での3月5日~3月16日まで参加いたしました。その中でも印象に残ったイベントを紹介させていただきます。

1つは、カナダのデジタル教育についての講演です。学校でのデジタル教育は15歳までが良いとされており、子どものころにデジタルに触れることが、デジタルに対する態度が変わるというお話でした。また、デジタルにおけるギャップが、新しいジェンダー不平等を生み出しているお話もありました。それを聞いて、日本でももっと早い段階でデジタル教育を行わなければならないと感じました。

もう1つは国際女性デーのことです。国際女性デーでは、国連ニューヨーク本部の本会議場で、代表による挨拶などが行われました。その中でも「周りの人にYou are beautifulと言ってみましょう」という提案があり、会場全体で「You are beautiful」と言い合う声が響きました。この場に居られたことをとても幸せに感じました。

日本BPW連合会では、パラレルイベントも主催しました。「起業におけるジェンダー主流化への取り組み」をテーマに、タンザニアで事業を行っている菊池モアナ氏のプレゼンテーションやグループディスカッションを行いました。イギリス、韓国、フランスなどからも含め42名の方にご参加いただきました。

現地でCSW67関連会合に参加して、大きなエネルギーや、活動継続に勇気と自信をいただきました。参加者には様々な背景をもつ方々がおり、私にとってロ-ルモデルとなる方ばかりで、将来への可能性も広がりました。他のNGOのユースレポーターとも関わる機会があり、異なるバックグラウンドがあり、刺激をもらい、活動意欲にもつながりました。

NGOフォーラムパラレルイベント参加報告

– 上野 真由子
 KFAW国際交流課職員

3月11日に、国際女性の地位協会(JAIWR)が主催したパラレルイベントに参加しました。自身の発表のテーマは「途上国の行政官を対象としたジェンダー主流化のオンライン研修」です。アジア女性交流・研究フォーラムではJICA九州から受託し、行政官への研修を行っています。

この研修は1992年から2022年まで30年間続いており、91カ国から486名の行政官を受け入れております。2020年以降、新型コロナウイルス感染症蔓延により、オンラインでの研修へと切り替わりました。

オンラインの利点は移動の必要がないことです。障害のある方や、介護や育児をされている方にとっても、有効であると考えられます。女子差別撤廃条約の第10条「教育における差別の撤廃」にあるように、オンライン研修を活用することで、様々な理由で教育の機会に恵まれなかった方にも、機会を提供することができます。また、ビデオを録画することで、研修員が何度も視聴でき、より理解を深めることもできます。

しかし、オンラインには課題もあります。研修員のインターネットの接続に関する問題です。国によってはインターネット環境が十分に整備されていない国もあります。また、対面では相手の表情や声のトーン、場の雰囲気などを踏まえて、言いたいことを理解することが可能ですが、オンラインではとても難しいということが分かりました。

以上のようなオンライン研修の利点や課題をふまえ、この経験を今後の業務に活かしたいと思います。

今回のWeb版Asian Breezeはいかがでしたか。ぜひご意見、ご感想をお聞かせください。

Eメール→info@kfaw.or.jp


Asian Breeze 96号 (ウェブニューズレター)

  • 逆境を乗り越えて:明るい未来への道を切り拓く
    マニラの路上に生きる若者たち
    – ハーバート・Q・カルピオ 
    (チャイルドホープ・フィリピン財団 事務局長)

  • 「世界は変えられる」子どもがそう信じられる社会に
       Change Makers Fes2023開催報告
    – 中島 早苗 
    (認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン 代表)

  • COVID-19パンデミックにおけるバングラデシュ障害女性の経験
    – 金澤 真実
    (2021/22年度 KFAW客員研究員)


  96号 2023年5月発行


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