XXIX
水が世界を支配する 宇宙から見た地球は水の惑星であるという。しかし、一旦地上に降りてみれば、人類が使える水(淡水)はきわめて少ない。地球にある水のうち、淡水はわずかに2.5%であるという。さらに地表に液体の形で存在する淡水は、全淡水の1%の10分の3未満しかないとのことである。 本書から、人類の文明の歴史は、その土地の人々や国が、水に関わる障壁をどう克服したかの歴史であることが、個々の文明のそれぞれの時代を対象に解説される。蒸気機関、ダムは、大きな技術的ブレークスルーであった。水は、生活用水、農業・工業用水、エネルギー源、輸送用の4つの用途として理解されてきたが、今、環境維持のための用途を考慮しなければいけない時代に来た。地球人口が今の60億が、2050年には、90億人になると予想され、ますます、淡水が必要になってくる。しかし、その有効活用の道は遙かであり、化石水は枯渇する一方である。本書のプロローグでは、「21世紀には、水を「持つもの」と「持たざるもの」との間で一触即発の政治的断層線が生じつつある。・・石油をめぐる争いが20世紀の歴史を形作ったとすれば、今後は淡水をめぐる争いが、世界秩序と文明の行方を決める新しい転換点となろう。」と書かれている。まさに、水は油より重い時代になるのであろうか。 世界の文明の発展を独自の視点で見る本として、ベストセラーになった「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド著:草思社 2000年)があったが、本書は、「水」を視点として、文明史を解き明かし、今後の世界の方向を見ようとするもので、きわめて重要な視点を提示している。著者は、これからの水問題は単独の問題としてではなく、水とエネルギーと食糧と地球温暖化の総合的な問題として捉える必要があるという。特に、河川は、その源流・上流から、下流に至るまで、きわめて多くの国が関わるものであり、その有効活用には、国際的な叡智が必要であろう。 本書は西欧文明、イスラム文明、中国文明、インド文明についての記述が中心であり、日本文明についてはあまりふれられていない。そこで、巻末に、日本水フォーラム事務局長の竹村公太郎氏による日本の水問題についての解説がある。竹村氏は、江戸時代の日本文明が水危機の21世紀に世界が進むべき指針を示しているという。 学長 磯貝 彰 ※ 書評中の身分・表現は当時のものです。 |