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ビヨンド・エジソン : 12人の博士が見つめる未来

最相葉月著


 私は東京に行った折りには、時間があれば本屋に立ち寄ることにしている。時として棚にある本が私を呼んでくることがある。読んでくれと。この本もこうして見つけた本である。
 科学における「なぜ」という疑問にはwhyとhowの2つがある。
どのような機構で、あるいはどのような論理でそうなるのかのhowは、科学の研究対象となる。しかし、何のために、どのような意味で、そのようなものが存在するのかという意味でのwhyは、時によって、研究の対象とならない、哲学や宗教のようなものである。そのため、whyを説明するために、時として、超論理的な神などが持ち出されてきた。
 サイエンスを行う立場でも、同じように、whyとhowがある。How(どのようにして、科学の研究を行うのか。)は、技術として、あるいは、考え方として、伝承可能である。しかし、whyである、その研究者は、何故、その研究を行おうとするのかは、伝承できない、個人の思想や発想の問題である。
 何故人は科学を行おうとするのか、何故人は科学者になろうとするのか(あるいはしたのか)。困難な道である中、それを承知で、科学者になろうとする人を突き動かすものは何か。  本書はそんなことに興味を持った著者が色々な分野の先端的研究を行っている12人の科学者を選び、そのインタビューなどをまとめたものである。その研究者が如何にして、今にあるか、あるいは、研究者になってきたか、それにどのくらいの人が関わってきたかが、理解される。まさに、科学者は一人で科学者になるのではなく、人間(じんかん)で、科学者になるのである。科学の主要な部分、あるいは重要な部分は、得られた結果としての知識ではなく、それを紡いできた物語であると、私は思っている。本書は、これから科学者になろうとする学生諸君が、自問自答するために材料となるであろう。

学長 磯貝 彰

※ 書評中の身分・表現は当時のものです。